「自分が亡くなったら、この子は誰が迎えに来てくれるんだろう」
遺言書で新しい飼い主を決めておいても、亡くなったその日に、誰かが家に来てペットを保護し、新しい飼い主のもとへ連れて行ってくれなければ、ペットはひとりで部屋に残されてしまいます。
この「亡くなった直後の段取り」を、元気なうちに誰かに頼んでおく契約が、死後事務委任契約です。
死後事務委任契約とは
ふつうの委任契約は、頼んだ人が亡くなると終わります(民法第653条第1号)。
ただ、最高裁判所の判例(平成4年9月22日判決)で、亡くなったあとの事務を頼む契約は、頼んだ人が亡くなっても終わらないという合意を含んでいると認められています。
そのため、生きているうちに契約を結んでおけば、亡くなったあとに、頼んだ相手(受任者)が契約にそって手続きを進めることができます。
ただ、「亡くなっても終わらない」ことと、「そのあと絶対に解除されない」ことは別です。契約書には、ご本人の死亡後も契約を終了させないことを明記し、解除や、受任者が対応できなくなった場合の取扱いも決めておきます。
ペットについて頼めること
たとえば、次のようなことを契約で決めておけます。
- 亡くなったという連絡を受けたら、すぐにペットを保護する
- 新しい飼い主へ引き渡す、または事前に受入れを確認した施設(老犬ホームなど)へ預ける
- 引き渡すまでの間、一時的に預けるところを手配する
- 施設への入所費用や、お世話の費用を支払う
- かかりつけの動物病院、ペット保険、ペットシッターなどへの連絡や解約
- ペットの性格や持病、食べ物などをまとめたものを、新しい飼い主に渡す
大事な注意:「引き渡しの段取り」と「誰のものになるか」は別です
ここがいちばん誤解されやすいところです。
日本の法律では、ペットは飼い主の財産として扱われ、飼い主が亡くなると相続人に引き継がれます(民法第896条)。
死後事務委任契約は、あくまで手続きや段取りを頼む契約です。この契約だけで、ペットの所有権が当然に移るわけではありません。
ペットの保護・引き渡しを頼むことと、ペットの所有権を誰に引き継ぐかは、分けて考える必要があります。新しい飼い主が相続人で、その方が相続する場合もあります。相続人以外の方に所有権を引き継いでもらう場合は、次のような方法を検討します。
- 遺言書で、ペットを新しい飼い主に遺す(遺贈。民法第964条)
- 新しい飼い主と、死因贈与契約を結んでおく(亡くなったときにペットを贈る約束。民法第554条)
所有権を引き継ぐ方法と、実際の保護・引き渡しの段取りを整えることで、ご希望に沿った引き継ぎに備えられます。
ただし、遺贈は受け取る方が放棄することもできます(民法第986条)。引き受ける方の体調や、施設の受入れ状況によっては、予定どおりに進められない場合もあります。代わりの引受先まで考えておくことが大切です。
ほかの方法とのちがい
| 方法 | 役割 |
|---|---|
| 遺言書・死因贈与 | 相続人以外の方に、ペットの所有権を引き継ぐ |
| 死後事務委任契約 | 亡くなった直後の保護・引き渡し・支払いを頼む |
| 飼育委託契約 | お世話をしてくれる方と、世話の内容を約束する |
| ペット信託 | お世話の費用を、別の人に管理してもらう |
どれか1つだけで全部をまかなえるわけではありません。ご家族の状況や、託せる方がいるかどうかで、組み合わせ方が変わります。なお、ご存命中の入院などに備えたお世話は、飼育委託などの契約で別に準備します。
契約で決めておくこと
- 誰に頼むか(受任者)。その方が先に亡くなったり、引き受けられなくなったりしたときの代わりの方も
- どこまで頼むか(保護・引き渡し・支払い・解約など)
- ペットの情報(名前・年齢・持病・かかりつけの病院・好きな食べ物など)。ペットファイルにまとめておくと、そのまま渡せます
- 費用の金額・支払方法・お金の管理方法。遺言書で費用を残しても、それだけで受任者がすぐに使えるとは限りません。亡くなった直後に必要な費用を使えるよう、生前に受任者へお金を預けておく方法なども含めて準備します。預ける場合は、保管方法・支出の記録・残ったお金の返し先も決めておきます
- 誰から受任者へ、亡くなったことを知らせるか
- ペットのいる場所に入るための鍵の管理や、管理会社・ご家族との連絡方法
- 引受先が受け入れられなくなった場合の対応
- 受任者への報酬
- 相続人への連絡の仕方
相続人がいる場合は、契約の内容をあらかじめ伝えておくと、亡くなったあとに「聞いていない」という行き違いを防ぎやすくなります。
誰に頼むか
ご家族、ご友人のほか、行政書士などの専門家に頼むこともできます。
頼む相手がご自身と同じくらいの年齢だと、先に体調を崩されることもあります。代わりの方を決めておくか、年齢の離れた方にお願いしておくと安心です。
公正証書にしたほうがいい?
死後事務委任契約は、法律で公正証書にしなければならないと決まっているわけではありません。
ただ、公証役場で公正証書にしておくと、契約の内容とご本人の意思をはっきり示しやすくなります。遺言書を公正証書でつくる場合は、あわせて準備することもできます。
行政書士がお手伝いできること
当事務所では、ペットのための死後事務委任契約書の作成をお手伝いしています。遺言書や飼育委託契約書とあわせて、全体の組み合わせから一緒に考えます。
不動産の登記は司法書士、相続税などの税務は税理士、相続人どうしで争いがある場合は弁護士の業務です。必要に応じて、信頼できる先生をご紹介させていただくこともあります。
まとめ
- 死後事務委任契約は、亡くなった直後の段取りを頼む契約
- 委任はふつう死亡で終わるが、死後の事務を頼む契約は亡くなっても終わらない(最高裁平成4年9月22日判決)
- ペットの保護、新しい飼い主への引き渡しや施設への預け入れ、費用の支払い、各所への連絡などを頼める
- 契約書には死亡後も終了させないことと、解除や受任者が対応できなくなった場合の取扱いを明記する
- 死亡の連絡、鍵の管理、直後の費用まで、実際に動ける準備をしておく
- この契約だけでペットの所有権が移るわけではない。相続人以外の方に引き継ぐなら、遺言(遺贈)や死因贈与などを検討する
- 遺贈は放棄されることもある。代わりの引受先も考えておく
- 受任者が引き受けられなくなったときの代わりの方も決めておく
- 相続人には内容を伝えておく
「この子を、ちゃんと届けてもらえるか」。その不安を、元気なうちに一つずつ形にしておきましょう。
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出典
e-Gov法令検索「民法」(第554条、第643条、第653条、第656条、第896条、第964条、第986条)
最高裁判所 平成4年9月22日判決
※本記事は2026年10月時点の情報に基づいています。契約の内容は、ご家族の状況や財産によって変わります。実際のご準備にあたっては、ご相談ください。
Shoko行政書士事務所では、ペットのための死後事務委任契約書・遺言書・飼育委託契約書の作成のご相談をお受けしています。兵庫県宝塚市を拠点とし、京都府京都市・大阪府大阪市を中心に、オンライン・訪問にて対応させていただきます。業務の内容と料金はペットのための未来への備えのページをご覧ください。
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