遺言書を作ろうと思ったとき、多くの方が迷うのが「自分で書くか、公証役場で作るか」です。民法では、ふだん使う遺言の形として、自筆証書遺言・公正証書遺言・秘密証書遺言の3つが定められています(民法第967条)。この記事では、よく使われる自筆証書遺言と公正証書遺言の違いを整理します。
違いの一覧
| 項目 | 自筆証書遺言 | 公正証書遺言 |
|---|---|---|
| 作る人 | 自分で書く | 公証人が作る |
| 書き方の決まり | 全文・日付・氏名を自分で書き、印を押す | 証人2人以上の立会いのもと、遺言の内容を公証人に伝える |
| 証人 | いらない | 2人以上必要 |
| 費用 | ほとんどかからない(法務局に預ける場合は手数料3,900円) | 公証人の手数料がかかる(財産の額などで決まる) |
| 書き方の誤りで無効になるおそれ | ある | ほとんどない |
| 家庭裁判所の検認 | 必要(法務局に預けた場合は不要) | 不要 |
| 保管 | 自分で保管、または法務局に預ける | 原本は原則として電子データで保存 |
自筆証書遺言
書き方の決まり
自筆証書遺言は、遺言する人が全文・日付・氏名を自分で書き、印を押す必要があります(民法第968条第1項)。
財産の一覧(財産目録)を付ける場合、その目録はパソコンで作ったものや、通帳のコピーなどでもかまいません。ただし、目録の1枚ごとに署名と押印が必要です。両面に記載がある場合は、両面に署名と押印をします(同条第2項)。
書き直すときにも決まりがあります。変えた場所を示し、変えたことを書き添えて署名し、変えた場所に印を押さないと、変更の効力が生じません(同条第3項)。
よいところ
- 紙・筆記用具・印鑑を用意すれば、思い立ったときに作れる
- 費用がほとんどかからない
- 内容をほかの人に知られずに作れる
気をつけたいところ
- 日付が抜けている、印がないなど、決まりを守れていないと無効になるおそれがある
- 自宅で保管すると、なくしたり、見つけてもらえなかったりするおそれがある
- 亡くなったあと、遺言書を保管していた人や見つけた相続人は、家庭裁判所で検認を受ける必要がある(民法第1004条第1項)
検認を受けずに遺言を執行したり、封印のある遺言書を家庭裁判所の外で開けたりすると、5万円以下の過料の対象になります(民法第1005条)。
法務局に預ける「自筆証書遺言書保管制度」
自筆証書遺言は、法務局(遺言書保管所)に預けることもできます。
- 手数料は遺言書1通につき3,900円(法務省「自筆証書遺言書保管制度」)
- 法務省令で決められた様式で作り、封をしないで出す(遺言書保管法第4条第2項)
- 申請は、遺言する人が自分で法務局に出向いて行う(同条第6項)
- 法務局に預けた遺言書は、家庭裁判所の検認がいらない(同法第11条)
法務局では、自書・日付・署名・押印などの形式面と、用紙や余白など保管制度上の様式を確認します。ただし、遺言の有効性や、内容が希望どおりの法的効果を生むことまでは保証されません。内容が心配な場合は、専門家に見てもらうと安心です。
公正証書遺言
作り方の決まり
公正証書遺言は、証人2人以上の立会いのもと、遺言する人が遺言の内容を公証人に伝え(口授)、公証人が作成します(民法第969条)。
次の人は証人になれません(民法第974条)。
- 未成年者
- 推定相続人(相続人になる予定の人)と受遺者(遺言で財産をもらう人)、その配偶者と直系血族
- 公証人の配偶者、四親等内の親族、書記、使用人
家族は証人になれないことが多いので、知人や専門家に頼むか、公証役場に紹介をお願いすることになります。
よいところ
- 公証人が作るので、方式の不備で無効になるおそれがほとんどない
- 原本は原則として電子データで保存されるので、なくしたり書き換えられたりする心配が少ない
- 家庭裁判所の検認がいらない(民法第1004条第2項)
- 字を書くのが難しい方でも作れる
ただし、公正証書遺言でも、遺言をする能力がなかった場合などには、有効性が争われることがあります。
気をつけたいところ
- 公証人の手数料がかかる(財産の額や、もらう人の数などで決まります)
- 証人を2人そろえる必要がある
- 公証役場との打ち合わせなど、作るまでに日数がかかる
令和7年10月1日から、公正証書作成手続のデジタル化が始まり、法務大臣が指定する公証人が作成する公正証書は、原則として電子データで作成・保存されます。本人の申出があり、公証人が相当と認める場合など、所定の条件を満たせば、ウェブ会議による作成も可能です。遺言は本人の意思確認が重要なため、ウェブ会議を使えるかどうかは慎重に判断されます。対応や手続きの細かな流れは、公証役場に確認してください。
どちらを選ぶとよいか
自筆証書遺言が向いている方
- まずは考えを形にしておきたい
- 財産や相続人の関係がシンプル
- 費用をおさえたい(その場合も、法務局に預けると安心です)
公正証書遺言が向いている方
- 遺言の内容を法的に整理し、実現に向けて備えたい
- 財産が多い、不動産がある、相続人の関係が複雑
- 家族の間でもめないか心配
- 字を書くのが難しい
遺言をする能力がある間は、法定の方式で撤回・作り直しができます(民法第1022条)。前の遺言と後の遺言の内容がぶつかる部分は、後の遺言で前の遺言を撤回したものとみなされます(民法第1023条)。まず自筆証書遺言で作り、あとで公正証書遺言にする、という進め方もあります。
ペットのことを遺言に書くとき
法律上、ペットに直接財産を遺すことはできません。例えば、〇〇さんに財産を遺すとともに、ペットのお世話をする義務を負ってもらう「負担付き遺贈」などを検討します。お世話をお願いする方の承諾や、飼育費用、ペットを引き渡す段取りも、事前に考えておくことが大切です。詳しくは「遺言書にペットのことを書くときの注意点」で解説しています。
まとめ
- 自筆証書遺言は、全文・日付・氏名を自分で書いて押印。財産目録はパソコンでもよいが、1枚ごとに署名と押印
- 公正証書遺言は、証人2人以上の立会いのもと公証人が作成するため、方式の不備による無効のリスクを抑えられます。ただし、遺言をする能力がなかった場合などには、有効性が争われることがあります
- 検認は、自筆証書遺言では必要。公正証書遺言と、法務局に預けた自筆証書遺言では不要
- 法務局の保管制度は1通3,900円。形式面は確認されるが、遺言の有効性や法的効果までは保証されない
- 遺言をする能力がある間は、法定の方式で撤回・作り直しができる
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出典
e-Gov法令検索「民法」(第967条、第968条、第969条、第974条、第1004条、第1005条、第1022条、第1023条)
e-Gov法令検索「法務局における遺言書の保管等に関する法律」(第4条、第11条)
法務省「自筆証書遺言書保管制度の手数料一覧」
日本公証人連合会「公正証書の作成手続のデジタル化」
※本記事は2026年10月時点の情報に基づいています。公証人の手数料や手続きの流れは、公証役場にご確認ください。
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