医療法人を運営していると、診療とは別に「都道府県への届出」という仕事がついてまわります。決算に関するもの、経営情報に関するもの、役員に関するもの——それぞれ根拠も期限も違うため、全体像がつかみにくいという声があります。
この記事では、医療法人にどのような行政手続きがあるのかを、根拠条文とあわせて整理します。
医療法人の行政手続きとは
医療法人は、都道府県知事の認可を受けて設立される法人です(医療法第44条第1項)。設立のときだけでなく、設立後も継続して都道府県とのやりとりが続くことが、株式会社などとの大きな違いです。
医療法人の行政手続きは、大きく2つに分けて考えると整理しやすくなります。
① 毎年必ず必要になるもの
- 決算届(事業報告書等の届出)
- 経営情報等の報告
- 資産の総額の変更登記とそれにともなう届出
会計年度が終われば自動的に発生します。「今年は何もなかったから提出不要」ということはありません。
② 事由が生じたときに必要になるもの
- 役員に変更があったとき
- 定款・寄附行為を変更するとき
「①は毎年」「②はそのつど」——まずこの区別を押さえておくと、見通しが立ちやすくなります。
① 決算届(事業報告書等の届出)
作成の期限と届出の期限は違います
ここは見落とされやすい点です。書類を「作る期限」と「出す期限」は別に定められています。
| 期限 | 根拠 | |
|---|---|---|
| 作成 | 毎会計年度終了後2月以内 | 医療法第51条 |
| 都道府県知事への届出 | 毎会計年度終了後3月以内 | 医療法第52条 |
医療法第51条は、次のように定めています。
「医療法人は、毎会計年度終了後二月以内に、事業報告書、財産目録、貸借対照表、損益計算書、関係事業者との取引の状況に関する報告書その他厚生労働省令で定める書類(以下「事業報告書等」という。)を作成しなければならない」
そのうえで医療法第52条が、
「医療法人は、厚生労働省令で定めるところにより、毎会計年度終了後三月以内に、次に掲げる書類を都道府県知事に届け出なければならない」
としています。3月以内の届出だけを意識していると、作成の期限を過ぎてしまうことになります。3月決算であれば、5月末までに作成、6月末までに届出という流れです。
作成する書類
- 事業報告書
- 財産目録
- 貸借対照表
- 損益計算書
- 関係事業者との取引の状況に関する報告書
- その他厚生労働省令で定める書類
届け出られた書類は、請求があったときに閲覧に供されることとされています。医療法人の運営の透明性を確保するための仕組みです。
② 経営情報等の報告
医療法人の経営情報を都道府県知事へ報告する制度です。
期限は毎会計年度終了後3か月以内、外部監査を受ける医療法人については4か月以内とされています。決算届と同じ時期になりますので、あわせて準備するのが効率的です。
③ 登記の届出
医療法人は、登記をしたときにも都道府県への届出が必要です。医療法施行令第5条の12は、次のように定めています。
「医療法人が、組合等登記令(昭和三十九年政令第二十九号)の規定により登記したときは、登記事項及び登記の年月日を、遅滞なく、その主たる事務所の所在地の都道府県知事に届け出なければならない」
毎年発生するのは資産の総額の変更登記です。資産の総額に変更が生じたときは、毎事業年度末日から3か月以内に変更の登記をすることとされています。
登記そのもの(法務局への登記申請)は司法書士の業務です。行政書士がお引き受けできるのは、登記完了後に都道府県へ行う届出のほうになります。
④ 役員変更の届出
医療法施行令第5条の13は、次のように定めています。
「医療法人は、その役員に変更があつたときは、新たに就任した役員の就任承諾書及び履歴書を添付して、遅滞なく、その旨を都道府県知事に届け出なければならない」
添付書類まで条文に書かれている点が特徴です。就任承諾書と履歴書は、届出のたびに必要になります。
役員は定期的に入れ替わります
医療法人には、理事3人以上・監事1人以上を置かなければならないとされています(医療法第46条の5)。
また、役員の任期は2年を超えることができないとされています(再任は可能です)。つまり、少なくとも2年に一度は改選の時期が訪れるということになります。
⑤ 定款・寄附行為の変更
定款や寄附行為を変更する場合は、届出ではなく認可が必要です。医療法第54条の9は、次のように定めています。
「定款又は寄附行為の変更(厚生労働省令で定める事項に係るものを除く。)は、都道府県知事の認可を受けなければ、その効力を生じない」
認可を受けるまで効力が生じませんので、スケジュールに余裕をもって進める必要があります。
電子と書面、2つの方法があります
事業報告書等・経営情報等の届出については、電子(G-MIS)で行う方法と書面による方法があります。
様式や提出部数など具体的な取扱いは都道府県によって異なる場合がありますので、所管の窓口の取扱いをご確認ください。
スケジュールの目安(3月決算の場合)
| 時期 | やること |
|---|---|
| 〜5月末 | 事業報告書等の作成(会計年度終了後2月以内) |
| 〜6月末 | 決算届の提出・経営情報等の報告(会計年度終了後3月以内) |
| 〜6月末 | 資産の総額の変更登記(事業年度末日から3か月以内) |
| 登記完了後 | 登記の届出(遅滞なく) |
6月末に期限が集中します。5月の連休明けから動き始めておくと、慌てずに済みます。
行政書士ができること・できないこと
| 担当 | |
|---|---|
| 決算届(事業報告書等の届出) | 行政書士 |
| 経営情報等の報告 | 行政書士 |
| 役員変更の届出・登記の届出 | 行政書士 |
| 法務局への登記申請 | 司法書士 |
| 決算書類そのものの作成・税務申告 | 税理士 |
都道府県への届出は行政書士、登記は司法書士、税務は税理士——このように分かれています。
まとめ
医療法人の行政手続きは、毎年必ず発生するものと事由が生じたときに発生するものに分けて考えると整理しやすくなります。
特に押さえておきたいのは次の3点です。
- 事業報告書等は、作成が2月以内・届出が3月以内と期限が2つある
- 登記の届出・役員変更の届出は、いずれも「遅滞なく」行う
- 役員変更の届出には、就任承諾書と履歴書の添付が必要
手続きの内容や料金については「医療法人の行政手続き」のページでご案内しています。事業報告書等の届出については「医療法人の事業報告書等の届出」もあわせてご覧ください。
出典
厚生労働省「医療法」
厚生労働省「医療法施行令」
厚生労働省「医療法人に関する情報の調査及び分析等について」
※本記事は2026年8月時点の情報に基づいています。法令や制度は改正される場合がありますので、実際のお手続きにあたっては最新の情報をご確認ください。
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